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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)455号 判決

控訴人

中村謙二郎

被控訴人

土方昭

堀領一郎

右両名訴訟代理人

山崎郁雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一東京都豊島区巣鴨三丁目六二六番の一四の宅地(甲地)が現に国の所有であることは、当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、訴外宮沢格一が国から甲地を賃借していることが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、右宮沢が同地上に倉庫を所有し、被控訴人らが右倉庫の一室をそれぞれ賃借していることは当事者間に争いがない。

ところで、被控訴人らは、六二六番の一八の土地(丙地)は控訴人の所有であると主張するが、〈証拠〉を総合すれば、丙地は昭和三一年八月一八日控訴人がその長男である中村健一のために鶴田琴江から買受けて、同日付で同健一所有名義で所有権移転登記を経由していることが認められ、右認定に反する証拠はない。したがつて、丙地は、中村健一の所有であつて、控訴人の所有に属しないというべきである。この点に関し、控訴人は丙地の所有権が名実共に自己に属していないのに、本訴請求をうけるいわれはないと主張するが、被控訴人らが控訴人に対し主張する囲繞地通行権に基づく通行妨害禁止請求権は袋地自体の物権的請求権の一態様であるから、囲繞地所有者に対してのみならず、通行を妨害するすべての者に対して、妨害の禁止を請求することができるのであるから、控訴人が丙地の所有者でなくとも、控訴人が現実に被控訴人らの本件係争(一)の土地の通行を妨害している以上、控訴人の右の主張は採用できない。

二次に、控訴人は、被控訴人らは債権者代位権を行使する法的地位を有しないと主張するので、この点について判断する。

1 控訴人は、被控訴人らが甲地の賃借権者であると主張する宮沢格一が中村健一を被告として、本件係争(一)の土地につき、本件と同一の訴を提起しているから、被控訴人らは右宮沢に代位して本訴を提起しえないと主張する。しかしながら、〈証拠〉によれば、右宮沢の承継人宮沢君勝が提起している訴は、中村健一に対するものであつて、被控訴人に対するものではないことが明らかであるから、被控訴人が右宮沢に代位して控訴人に対する訴を提起する妨げとはならないというべきであり、控訴人の右主張は、失当である。

2 また、控訴人は、囲繞地通行権が物権であること及び甲地の所有者が資力のある国であることを挙げて債権者代位権の要件を欠くと主張する。しかし、囲繞地通行権は、袋地所有者が民法二一〇条ないし二一三条の規定に基づき、通行妨害者に対し行使しうる物上請求権であるから、債権者代位権の目的となりうることが明らかである。また、本訴請求は被控訴人らの有する本件建物の賃借権を保全するため地主である国及びその借地人宮沢格一に代位して囲繞地通行権を行使しているものであつて、かかる場合には、債権者である国及び借地人である宮沢格一の無資力が債権者代位権の行使の要件となるものではない。控訴人の右主張は採用できない。

3  控訴人は被控訴人らが甲地上の建物の一部を賃借していると主張する者にすぎず、甲地そのものを独立して直接利用する権利を有するものではないから、国が有する囲繞地通行権を代位行使する法的地位にないと主張する。しかしながら、本件において、被控訴人らが国に代位して囲繞地通行権を行使しうるかどうかは別として、被控訴人らは、本件建物の敷地である甲地の賃借人である宮沢格一に代位して、囲繞地通行権を行使する旨をも主張しているところ、成立に争いのない甲第二〇号証によれば、宮沢は同敷地上の建物につき所有権取得登記を経由していることが認められるから、後記のとおり甲地が袋地である以上、同人は借地人として、民法第二一〇条もしくは第二一三条の規定に基づき固有の囲繞地通行権を有するものというべく、したがつて、同人からその所有の建物を賃借している被控訴人らは、同建物の使用、収益に必要な限度において甲地の借地人である宮沢に代位して囲繞地通行権及びその他の妨害排除請求権を行使することができるものと解するのが相当である。この点に関する控訴人の主張も採用できない。

三そこで、甲地が袋地であるかどうかについて検討する。

1  分割前の東京都豊島区巣鴨三丁目六二六番の五の土地(別紙第一図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の部分)は、もと訴外中田三郎の所有であり、右土地は同第一図面(イ)(チ)の両点を直線で結んだ部分において公道(旧中仙道)に面していたのみで、他の部分は他の所有者の土地に囲繞されていた。右中田は昭和二三年三月一日右土地を同番の五と同番の一〇(同第一図面(イ)(ワ)(カ)(ヨ)(タ)(オ)(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の部分)とに分筆し、同年四月八日右同番の五の土地を財産税のため国(大蔵省)に物納した。国は昭和二五年一一月一四日右同番の五の土地を同番の五(同第一図面(ワ)(ロ)(レ)(タ)(ヨ)(カ)(ワ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の部分)、同番の一二(同第一図面(オ)(タ)(ツ)(ナ)(ラ)(ル)(オ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の部分、乙地)、同番の一三(同第一図面(レ)(ハ)(マ)(ソ)(ツ)(タ)(レ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の部分)及び同番の一四に分筆したうえ、同番の一二を同日原審被告小林に、その後同番の一三を訴外中西ことにそれぞれ払下げ譲渡し、右中西はその後右土地を訴外広瀬良子に譲渡した。さらに、国は昭和二七年一〇月一六日同番の一四の土地を同番の一四(同第一図面(ネ)(ソ)(マ)(ニ)(ホ)(ノ)(ネ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の部分)、同番の一八(同第一図面(ル)(ラ)(ナ)(ネ)(ム)(ヌ)(ル)の各点を順次直線で結んだ範囲内の部分、丙地)、同番の一九(同第一図面(ヌ)(ム)(ウ)(リ)(ヌ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の部分)及び同番の二〇(同第一図面(リ)(ウ)(ノ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の部分、戊地という。)に分筆し、その後、右丙地を訴外鶴田琴江に、同番の一九の土地を訴外関口一誠に、戊地を訴外中西鉎治にそれぞれ払下譲渡した。その後、右中西は戊地を宮沢格一に譲渡した。以上の事実は、当事者間に争いがなく、丙地については、右鶴田から中村健一に譲渡されたことすでに認定のとおりである。

2  そして、右分筆及び譲渡の結果、甲地が公簿上被控訴人らの主張の各土地によつて囲繞されるに至つたことは控訴人の認めるところである。しかるに、控訴人は甲地が公路に通じない袋地であることを争うので、以下、この点について検討する。

(1)  控訴人は、まず、国が鶴田琴江に丙地を譲渡した当時、同地上にはすでに建物が存在し、また、右土地のうち、別紙第二図面の(ル)(G)の両点を結んだ直線上には木の塀が存在していたから、右土地を通路として使用することは事実上不可能であり、このような場合には分割譲渡によつて袋地にならないと主張する。しかし、甲地が前記分筆及び譲渡の結果他人の所有の土地によつて囲繞されて、公路に通じない事態を生ずるに至れば、たとえ、丙地に控訴人主張のような事情が存したとしても、甲地が袋地であることを否定すべきいわれはないと解すべきであつて、このことは、民法第二一三条の規定に照らして多言を要しない。右主張は採用の限りでない。

(2)  控訴人は、国が乙地及び丙地をいずれも宅地としての価格で原審被告小林及び前記鶴田に対して払下げたものであるから、甲地が袋地になつたとしても、それは国が自ら招いた結果であり、したがつて、国に乙地及び丙地の通行権を認めるべきではないと主張する。なるほど、〈証拠〉によれば、国は乙地及び丙地を払下げるに当り、本件係争(一)及び(二)の土地部分を私道分として減価するなどの措置をとらなかつたことが認められる。しかしながら、国が右乙地及び丙地の払下に当り、減価の措置をとらなかつたことについて責められるべき点が仮にあつたとしても、それは契約当事者間でいわば内部的に処理されるべき事柄(具体的には瑕疵担保責任等契約上の問題)であつて、右乙地及び丙地が囲繞地としての物的負担を免れるものとは解されないというべきである。けだし、もしそう解しなければ、甲地は袋地として、乙地及び丙地に公路に通じる最適の通路を有しながら、右両地を除くその他の土地について通路を求めざるを得ない結果となり、かくては公益上の見地から隣接する土地の利用を調節するために設けられた囲繞地通行権の趣旨そのものを没却することになるからである。また、控訴人は自ら袋地を生じさせた譲渡人に右譲渡地内を無償で通行させることは不合理であると主張する。民法二一三条が囲繞地通行権の無償性を規定しているのは、同条所定の分割もしくは一部譲渡の場合には、当事者が通行権を予期して分割の部分を定め、又は価格を定めているものと推定しているからにほかならないと考えられる。しかしながら、分割又は譲渡の場合において、右のような考慮が払われない場合があつても、それは、契約当事者の契約上の責任問題として処理されるべき事柄であつて、右の分割又は譲渡によつて袋地が生じた以上、囲繞地通行権の無償性を規定する民法第二一三条の適用を排除すべきではないと解するのが相当である。したがつて、控訴人のこの点に関する主張も採用できない。

(3)  控訴人は、甲地は六二六番の六(別紙第一図面丁地)に接し、この丁地は私道を経て公道に接するところ、丁地上の二箇所(別紙第一図面A区画及びB区画)が古くから通路として使用されてきたから、甲地は袋地に当らないと主張するが、原判決認定の丁地上の右二箇所の通路の設けられた経緯、その使用の態様及び現状に照らせば、当裁判所も原判決と同様、控訴人の右主張は失当であるものと判断する。その理由は原判決九枚目裏九行目から同一四枚目表二行目までの記載と同じである(但し、同一一枚目裏三行目の「遂次」とあるのを「逐次」と改める。)から、これを引用する。

(4)  控訴人は、原判決が原審被告小林智男所有の乙地の一部である本件係争(二)の土地につき囲繞地通行権を認め、同判決が確定したことにより、甲地は本件係争(二)の土地を経て公路に通じることになつたから袋地ではなくなつたと主張する。なるほど、原判決により被控訴人らと原審被告小林との間において本件係争(二)の土地につき囲繞地通行権に基づく通行妨害禁止請求権の存在することが確定されたことは、本件訴訟の経過に徴して明らかである。しかしながら、被控訴人らは、右小林と控訴人に対し、甲地が袋地であり、本件係争(一)及び(二)の土地が永年にわたり、一体として、通路として使用されてきたこと、公路に至る通路としては右両土地がともに必要であることを主張して、本件訴訟を提起、追行してきたものであつて、このことは、被控訴人らの主張及び訴訟の経緯に照らして明らかである。そして、本件係争(二)の土地が通路と確定されたからといつても、本件係争(一)の土地が、右(二)の土地と一体として通路として必要と認められること後記のとおりである以上、右(一)の土地が公路に至る通路としての適格性を失ういわれはないというべきであり、したがつて、控訴人のこの点に関する主張も採用できない。

(5)  控訴人は、本件係争(一)の土地は別紙第二図面のとおり、甲地と離れて存在し、また、両地間には、建物が介在しているため、甲地から真直に達しないので、甲地を囲繞しているとはいえないと主張する。しかし、本件係争(一)の土地が丙地の一部であり、丙地が甲地の囲繞地であることは控訴人の自認するところである以上、丙地の一部である本件係争(一)の土地が袋地である甲地に隣接していなくとも、囲繞地であることの妨げにはならないというべきである。また、原審における検証の結果(第一、二回)によれば、甲地、乙地、丙地、本件係争(一)の土地及び丙地上の建物の配置は別紙第二図面のとおりであり、したがつて、甲地から直線的に本件係争(一)の土地に至ることは不可能であることが認められるけれども、袋地から公路に至る場合の通行の場所及び方法は、通行権を有する者のために、必要にしてかつ囲繞地のため損害の最も少ないものを選ぶことを要する(民法二一一条一項)にとどまり、四囲の情況により、必ずしも通路が控訴人主張の如く、真直でなければならないというわけではないから、控訴人のこの点に関する主張も採用できない。

(6)  控訴人は国有財産の払下は民法二一三条二項所定の譲渡に該当しないから、本件丙地の払下については同条の適用がないと主張するが、国有財産の払下なるものの法的性質は、金銭の対価を伴う国有財産の売り払いという民法上の売買に相当するものであつて、同条所定の譲渡に含まれることが明らかである。したがつて、控訴人の右主張は失当というべきである。

(7)  控訴人は囲繞地の所有者に交替があつたときには、民法二一三条の適用はないと主張する。丙地の所有権が国の鶴田琴江に対する払下により同人に移転され、同人から控訴人の子中村健一に譲渡されたことは前記のとおりである。しかし、囲繞地につき特定承継が生じたからといつても、袋地が囲繞されないことになるわけではない(もつとも、囲繞地と袋地の所有者が同一人となつたような特別の事情が生じた場合は別であるが、本件は、そのような場合に当らない。)から、控訴人の右主張も採用できない。

右によれば、甲地が袋地であつて、控訴人主張の丙地及びその一部である本件係争(一)の土地は甲地の囲繞地であると認められ、しかも、甲地が袋地になるに至つた前記認定の土地分筆及び譲渡の経緯に徴すれば、甲地は民法第二一三条所定の要件を充す袋地と認めるのが相当である。

さらに、控訴人は、国が丙地を払下げた際、囲繞地通行権を放棄したと主張するが、右主張の採用しえないことは、原判決説示のとおりである(原判決一七枚目表九行目の「しかし」から同裏八行目までの記載部分)から、これを引用する。

四そこで、次に、袋地である甲地の公路に至る通路がどの部分に、どのような規模で生ずるものとすべきかについて検討する。

1  訴外中田三郎がその所有の分割前の六二六番の五の土地を同番の五と一〇に分筆し、同番五の土地を国に物納し、ついで国が同番の五の土地を順次分筆して、それぞれ異なる者に対して譲渡した結果、甲地が公道に接しない袋地となつたことは前記のとおりであるから、右緯に鑑みれば、甲地経の公道に至る通路は、別紙第一図面の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地に限定される。しかも、同土地のうち、公道に接しているのは、同図面のうち、(イ)ないし(チ)の直線上に所在する土地であるから、右土地のうちから、通路を選定すべきこととなる。

2  ところで、右通路の選定に当つては民法第二一一条の規定に則り、当該袋地、隣接の土地及び囲繞地の位置、形状、用法及び従来の通行の情況等諸般の事情を勘案して、通行権者のため必要にして囲繞地のため最も損害の少ないものを選ぶことを要するところ、〈証拠〉を総合すれば、右公道に接している土地のうち、本件係争(一)及び(二)の部分を除くその余の土地上には、現に建物があつて、これを通路として使用することができないのに対し、右(一)及び(二)の土地は空地になつていて、大正年間から現在まで甲地及び六二六番の一三の土地上の建物の居住者及び利用者が通路として自由に利用してきたこと、甲地は56.39坪あり、その地上には現在、宮沢格一所有の倉庫があつて、被控訴人堀が一階の一部を、被控訴人土方が二階の一部をそれぞれ商品倉庫として使用しており、また、右六二六番の一三の土地(現在広瀬良子所有)は32.64坪あつて、同地上の建物には右広瀬が居住していることが認められ、原審における控訴人本人の供述中、右認定に反する部分は前記証拠に照らして措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。この点に関し、控訴人は、被控訴人らは甲地上の宮沢格一所有の倉庫から同人所有の戊地上の建物を通つて公道に出られるようになつている旨主張する。なるほど、現場写真であることに争いのない〈証拠〉によれば、戊地上の建物は一階がトンネル状になつていて甲地に通り抜けられるようになつていることが認められるが、〈証拠〉によれば、右建物の一階は右宮沢の営む家具の商品置場になつていて通路ではないこと、被控訴人堀は控訴人から本件係争地の通行を妨害されたので、右宮沢に対し、戊地上の建物内の通行を頼んだが、商品が置いてあることを理由に通行を断わられたことが認められる。また、原審における検証の結果(第二回)によれば、右甲地上の倉庫の二階と戊地上の建物の二階が渡り廊下のようになつていることが認められるが、被控訴人らが右倉庫の二階から右宮沢の二階を通つて公道に出られるとしても右宮沢の店舗内を通らなければならないことになる。

以上認定の諸般の事情、殊に本件係争(一)及び(二)の土地が永年にわたり甲地及び六二六番の一三の土地の公道に至る通路として利用されてきたこと、甲地から戊地を通じて公道へ出入りすることは物理的には可能でも、実際上不可能であること、戊地に甲地の通路を開設したとしても、六二六番の一三の通路として、本件係争(一)及び(二)の土地が必要であること等を勘案すれば、甲地から公道に至る通路としては、本件(一)及び(二)の土地が最適であつて、他に適当な場所を見出すことができないというほかない。控訴人は本件係争土地を人が自由に通行することは防犯上好ましくないとか、被控訴人らの通行回数が少ないとか、丙地は僅か一七坪余であつて、そのうち本件係争(一)の土地は3.4坪を占めるから、これを通路とされることは損害が大きいとか、宮沢格一は甲地の借地人であつて被控訴人らの使用する賃貸人であるから、自己所有の公道に面する戊地に被控訴人らの通路を開設すべきである等と縷々主張するが、右主張を考慮にいれてもなお前記認定を左右するに足りない。したがつて、右主張を前提とする権利濫用の抗弁も採用するに由ないものといわねばならない。

3  そこで、進んで、右通路の巾員等の規模について検討するのに、〈証拠〉及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

本件係争(一)及び(二)の土地及び付近の形状は別紙第二図面のとおりであり、公道に面した同図面(A)、(G)間の巾員は約一八〇センチ、(A)(ル)間は約八五センチ、奥のQ点付近のそれは約一六六センチと狭くなつている。また、X、Y間には、控訴人の妻中村きわ所有の建物が五五センチ程突出しているため、巾員は一二五センチと狭くなつているが、これには次のような経緯があつた。すなわち、被控訴人らは控訴人及び原審被告小林智男を債務者として豊島簡易裁判所に対し本件係争(一)及び(二)の土地の通行妨害排除の仮処分命令申請をなし、同裁判所から、同年九月五日通行妨害禁止の仮処分を得て、同土地を通行していたところ、翌昭和三八年七月末頃、控訴人の妻中村きわがその所有の建物部分を右通路に向つて九五センチ突出して増築した。そのため、被控訴人らが商品の搬出入に困難をきたしたので中村きわを債務者として、東京地方裁判所に対し、通行妨害禁止等の仮処分申請をした。そして、昭和四一年一一月四日同裁判所において、被控訴人らと同人との間に同人が右建物増築部分のうち現況の突出部分を除くその余の部分を取り壊し、かつ被控訴人らの本件係争(一)の土地の通行を妨害しない旨の裁判上の和解が成立し、その後、同人は右和解の趣旨に従つて右建物を現状のとおりに改築したものである。爾来、被控訴人らは商品や家財道具類、什器類等の搬出入を本件係争(一)及び(二)の土地を利用して、行つてきたものである。

被控訴人らは、右商品の搬出入のためには、少なくとも巾一間の通路を必要とする旨主張するのに対し、控訴人は、本件係争(二)の土地があれば、通行に支障はない、仮に支障があるとしても別紙第三図面どおりとして通路の巾員は一メートル二六センチあれば足りる旨主張する。前記認定事実に徴すれば、本件係争(二)の土地の巾員は約八五センチ、最も狭隘な部分の巾員は約七〇センチである(別紙第二図面(ラ)点付近参照)から、被控訴人らが何も持たずに単身歩行するならば、窮屈ながらも同土地部分のみを通行して甲地に至ることは可能であると認められるが、被控訴人らが商品や道具類を搬出入すべく通行するには支障をきたすものと認められる。右の事実と、本件係争(一)及び(二)の土地が永年にわたつて一体として通路として使用されてきたこと、その後、前記認定の裁判上の和解が成立したこと、乙地に所属する本件係争(二)の土地のみに通路の負担をさせて、丙地についてのみ右負担を免除もしくは軽減するのは相当でないこと、前記六二六番の一三の土地上には広瀬良子の居住する家屋があること、同土地及び甲地の土地の坪数が両者合せて約九〇坪もあること等諸般の事情を総合勘案すれば、控訴人の前記主張は採用し難く、被控訴人ら主張のとおり本件係争(一)及び(二)の土地を通路として利用させることが本件通行権の規模として相当と認められる。

五さらに、原判決添付の別紙目録(三)の(1)の木戸の撤去について判断する。

被控訴人らは、昭和三三年頃、控訴人及び原審被告小林智男が共同して別紙第二図面の(A)(G)線上に木戸を設置した旨主張し、控訴人は当初右共同設置の事実を認めたが、原審における昭和四〇年一一月二五日の第一六回準備手続において、右自白は真実に反しかつ錯誤に基づくものであるとして撤回し、右木戸は原審被告小林と控訴人の妻きわが昭和三二年設けたものであると主張するに至つたので、まず、右自白の撤回について検討する。この点に関し、控訴人本人は、原審において、「右木戸は従前の木戸が朽廃したので、昭和三三年に中村家と小林さんとの双方で再築したものである。」と供述するが、控訴人の妻きわが再築したとは供述していないのみでなく、現場写真であることについて争いのない〈証拠〉のうち、下方の写真によれば、右木戸の真中上部には控訴人の表札が掲げられていることが認められる。また、〈証拠〉によれば、被控訴人らを債権者とし、控訴人及び原審被告小林を債務者とする仮処分取消申立及び異議事件(豊島簡易裁判所昭和三七年(サ)第七四三号、昭和三八年(サ)第九九、第一〇〇号事件)においても、控訴人は右木戸がすでに昭和九年頃設置されたものであると主張するにとどまり、妻きわが右小林と共同して設けたとの主張をしていないことが認められる。右によれば、控訴人の右木戸の設置に関する自白が真実に反しかつ錯誤に基づくものと認めるに足りないから、右自白の徹回は許されない。したがつて、右木戸は控訴人が昭和三三年に右小林と共同で設置したことについては当事者間に争いがないというべきところ、右木戸は、別紙第二図面(ル)(G)間が開閉不能の塀に、(A)(ル)間の巾員約八五センチの部分が開閉できるにすぎない構造になつているため、被控訴人らが倉庫に商品等を搬出入するについても、丙地側の(ル)(G)約九五センチの区間は通行できないことが明らかである。前顕乙第一三号証のうち上方の写真によれば、右木戸の設置以前には、右(A)(G)間に開き戸を設置していたことが窺われるのであつて、開き戸であれば、被控訴人らの通行の妨げとならず、また、防犯上もある程度の効果があるから、これを設けることは妨げないが(ちなみに、〈証拠〉によれば、広瀬良子、宮沢君勝と原審被告小林智男間において成立した裁判上の和解では、別紙第二図面(A)(ル)間に開き戸を将来設置する旨の了解がなされたことが窺われる。)現在設置されているような木戸は被控訴人らの通行を妨害するものとして撤去すべきものといわねばならない。

六よつて、被控訴人らが控訴人に対し、本件係争(一)の土地につき甲地の借地人宮沢格一の有する囲繞地通行権に代位して、通行妨害禁止と前記木戸の撤去を求める本訴請求は、その余の主張について判断するまでもなく正当であるから、これを認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(渡辺忠之 糟谷忠男 浅生重機)

別紙図面〈省略〉

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